少年野球で「全員出場すると勝てない」は本当か。勝ちと出場機会を分ける3つの着眼点
ベンチに座っている子は、試合が終わるまで自分が出られるかどうか分かりません。
学童野球は6イニング制で、時間制限もあります。時間切れで6回に入れない試合もあるので、打順が後ろの子は打席が一度も回らないまま終わる試合が出てきます。守備で1イニングだけ出て、そのまま終わることもあります。
監督が本当に迷っているのは、この子たちをどうするかだと思います。
そして調べても出てくるのは「明確な方針を持て」「バランスを取れ」という話ばかりです。正しいのですが、それを読んだところで明日のオーダーは決まりません。
この記事では、方針論をいったん置きます。全員出場が何を失っているのかを数える方法と、控えの子を勝つ手段として使う方法を書きます。
結論:これは二択ではない
「勝ちを取るか、全員出場を取るか」で考えている限り、答えは出ません。どちらを選んでも、選ばなかった側に後悔が残ります。
考える単位を3つに分けます。
- どの試合で全員を出すか
- どのイニング・どの打順で出すか
- 控えの子を、勝つためにどう使うか
3つ目が一番見落とされています。控えの子を出すことは、情で払うコストとしてしか語られません。でも実際には、その場面に強い子を出すという勝ち筋になります。後で詳しく書きます。
なぜ二択に見えてしまうのか
方針が途中で揺れたチームが壊れる、という話があります。
全員出場を掲げて設立され、部員も集まったチームが、勝っているのに下級生や技術の低い子を使うのかという声に押されて方針を転換した。試合には勝つようになったものの、今度は別の問題が起きた。専門家がチーム運営の解説の中で挙げている例です。
問題は方針の中身ではありません。方針に根拠がなかったから、声の大きさで動いたということです。
「全員出すと決めたから出す」は、根拠ではなく宣言です。宣言は負けが続くと揺れます。「この試合で下位3人に2打席ずつ与えると、出塁がこれだけ減る。それでもこの試合は取りに行かないと決めた」なら揺れません。数字は、決めた方針を守るための道具になります。
部員が100人を超える規模のチームを取材した記事では、戦力を分散させるだけでは控え選手の出場機会は増えず、勝ちにこだわるタイミングを選ぶことで出場機会の均衡を保っていたと紹介されています。やっていることは、配分の設計です。
着眼点1:試合を3つに分類する
年間の試合を、シーズン前に紙の上で分けます。
- A(取りに行く):公式戦、大会の初戦、絶対に負けたくない相手
- B(勝ちたいが試す):リーグ戦の中盤、力の近い相手との練習試合
- C(育成優先):格上または格下との練習試合、交流戦
Cでは全員が同じだけ出る。Aでは主力で戦う。これをシーズン前に決めて、先に伝えておくのが要点です。
試合の後に説明すると、どんなに正しくても言い訳に聞こえます。先に配分を示しておけば、Aの試合で出番が少なかったことは想定の範囲内になります。
着眼点2:打順と交代のイニングを決める
学童野球の1試合で、自チームの総打席は20〜30程度です。9人で回すと2巡から3巡。つまり打順が1つ後ろになるだけで、打席が減る試合が出てきます。
時間切れで終わる試合では、後ろの3人に打席が回らないこともあります。ここが平均値の話ではなく、実際に起きていることです。
交代を何回に入れるかでも、失うものが変わります。
- 序盤(1〜2回):点差がついていないので采配の自由度が高い
- 中盤(3〜4回):点差を見てから判断できる
- 終盤(5回以降):リードしていれば安全だが、負けている試合では出番が消える
3つ目が落とし穴です。終盤に回すルールにしていると、負けている試合で交代を諦めてしまう。 年間で集計すると、思っていた以上に出場機会が偏っていることに気づきます。
打順そのものの組み方は、別の記事に分けました。
着眼点3:控えの子を、勝つために使う
ここが本題です。
終盤の同点、ランナーが出た。その子が走塁に自信のない子だったら、ベンチにいる走塁の得意な子を代走に出す。それで一つ先の塁まで行ければ、点が入ります。
ただし、足が速いから代走という単純な判断ではありません。替えたあとに守備が成立するかを先に見る必要があります。捕手のように突発的に替えが効かないポジションなら、次の守備がある限り代走は選択肢になりません。判断の順序はこちらに分けて書きました。
見逃し三振だけは避けたい場面なら、見逃しが少ない子を代打に出す。
これは情で出す交代ではありません。勝つために出す交代です。 そしてこの2つは、出場機会と勝ちが同じ方向を向く、数少ない場面です。
ただし条件があります。誰が走塁に強く、誰が見逃し三振が少ないかを、監督が知っていること。 知らなければこの手は打てません。感覚で「あの子は足が速そう」で出すと、外れます。
必要な数字は、スコアブックから出ます。盗塁の成功と失敗、牽制死、見逃し三振と空振り三振の内訳。集計の手順はこちらに書きました。
全員出場のコストを数える
着眼点1と2を決めるには、失う量が分からないと動けません。
必要なのは2つだけです。出塁率と、与える打席数。
全員出場のコスト(攻撃面)
= (主力の出塁率 − 控えの出塁率)×(控えに与える打席数)
仮に主力の出塁率が.400、控えが.200だとして、控えに1試合2打席与えるなら、差は 0.2 × 2 = 0.4。1試合あたり0.4回、出塁が減るという意味です。この数字は説明用の架空の値なので、自チームの実数で計算してください。
大事なのは数字の大小ではなく、これを見たときの自分の反応です。「0.4なら払える」と思うか、「この試合では払えない」と思うか。どちらも正解です。払っている額を知らないまま払うのをやめる、それだけが目的です。
守備側も同じ考え方で数えられます。どのポジションに何回打球が飛んだかを記録しておけば、守備機会の少ない位置から交代を入れる判断ができます。
明日からやる3ステップ
- 年間の試合を A / B / C に分類して紙に書く。そして先に伝える
- 2週間だけ、選手ごとの出塁と盗塁、三振の内訳を記録する。全部の指標はいりません
- 代走に出せる子と、代打で使える子を3人ずつ決めておく。試合前に頭に入れておきます
これだけで、「全員出したのに負けた」から「この試合ではここまで払うと決めて払った」に変わります。
よくある質問
全員出場すると本当に弱くなりますか?
弱くなります。ただし弱くなる量は測れます。上の式で出た数字を見て、払えるかどうかを試合ごとに判断してください。ゼロにする必要はありません。
交代は何回から入れるのがいいですか?
チームの構成によって変わります。ただし「終盤に入れる」と決めていると、負けている試合で交代を諦めてしまい、年間の出場機会が偏ります。
数字を出すと、子どもが傷つきませんか?
順位や序列の形で見せると傷つきます。前回の自分との比較で見せてください。順位表にして配るのは避けます。
保護者への説明はどうすればいいですか?
試合ごとに説明するより、シーズン前の配分方針を先に示すほうが効きます。個人成績の一覧を定期的に各家庭へ配ることで、保護者からの声がほぼなくなったというチームの取材記事もあります。全員の数字が同じ紙に載っている状態を作ると、そもそも説明が不要になるという例です。
練習時間の配分も同じ考え方でできます
打撃に時間を割くか、守備に割くか。これも配分の問題です。別記事にまとめます。